9号車乗り場

9号車乗り場

旅行記やら日記やら

夢に沈み、夢に浮かぶ

夢を見た。

本当に夢だったのかはわからない。寝れた記憶がないから。

 

雨の降る歩道橋、階段を登る。僕は君の後ろに立とうとして歩みを緩める。君も歩みを緩める。「〇〇ちゃんと付き合ったら絶対階段先に歩かせてくれて感動した」昔笑顔でそんなことを話してくれた君の顔を何度も思い出す。

雨の降る遊園地、ここ、どこだっけ。頭の両脇につけたぬいぐるみの耳、胸元につけたお揃いのシール。なぜか俺だけキャストさんに声をかけられて、君は「ねえなんで!?」とただをこねる。

雨の降るバスロータリー、これは…昔君も住んでいた僕の地元の駅前。たしか元カレの愚痴を聞いた時に日帰り温泉に誘ったんだっけ。この日も天気は良くなかった気がするな。俺は風邪気味で、君は当時よく着てたギンガムチェックの服を着て。店員のおじちゃんに「カップル?」って聞かれたりして。

雨の降る参道、この間君と行った神社だ。7時間雨の中を運転して着いた目的地。僕は神様の前ですら素直になれなくて、「この3人がずっと仲良くいられますように」なんて。

雨の降る寂れたアーケード。僕も君も住んでいる街の商店街だ。僕の溜まってた不満が漏れ出して、吹き出して、それを君に全部ぶつけて、大泣きしながら君に電話した翌日の景色だ。君の家から駅までの10分間、君はいつも通りお喋りしてくれた。「雨降るよ」「え、でも傘見つからないからいいや」道中のコンビニで傘買ってたよね。

 

夢を見ていた。

ずっと僕に向けてほしかった笑顔を、気持ちを、初めて僕に向けてくれたあの日からずっと。「私は君のこと、いいなって思ってるよ。」

「『ありがとう、ちょっと考えさせて』って言われて絶対ふられると思った」って君は言ってたけど。正直、今向けてくれるのかぁ、とは思ったかな。心が飛び上がったことは最後まで言えなかったな。

 

夢を見続けた。

ずっと行こうねって言ってたお店、何度も何度もリスケしてようやく行けたお店。

「去年ここの上のお店で忘年会した」「すごいね、こんなところで忘年会するんだ」「っていう話を前もした」「うん、そんな気がした」

「こんな家具が似合う家に住みたい」「いいね、住みたいね。家具見るの楽しいね」

「前ここのお店でヘアオイル買ったよね」「あ、そうだったね、やっと思い出した」

「やっと来れたねこのお店」「なにこの御通し」「結構おいしいね」「疲れちゃった」「じゃあ今日は早く帰ろう」「もう一緒にいられないなって思っちゃった」

夢から目覚めなかった。

何度も何度も夢から醒めようとした。

それでも私は君が好きだった。

夢から醒めようともがいた。

とっくに終わった夢に、ただ1人、まだ起きたくないとぐずる子供のようにしがみついた。

起きたくない、醒めたくない、離したくない、その笑顔を僕にだけ向けていてほしい

起きるしかない、醒めるしかない、離れている、もう二度とその笑顔はお前には向けられない

それでも俺は君が好きだった。好きで好きで好きで好きで、駅のホームに君を見つけて動揺するくらい好きで、駅に用事がある時はいつも君がいないか探してしまって、でもお願いだから1人でいてと願っていて。

最後にもう一度、夢にしがみつこうとした。あの4日間僕に向けてくれた笑顔が、どうしてもあの時の笑顔と重なってしまったから。「僕まだ好きなんですけど、どうしたらいいと思いますか」「もうそのつもりはないんだなって見ててわかったよ」僕だけがずっと夢を見ていた。

 

君が車でかけていた音楽。「これ何の歌?」「これしか知らないけど、すごく好きなの」「藍空と月 描写」

『君といても心はいつまでも痛いし君がいなくても心は痛いし』

『これでいいやなんてさ思ってないんだよ』

君の思う君は誰なんだろう。僕は君が好きなものはなんでも好きになれたよ。あの子以外はさ。

 

遠くの国道を走る救急車の音が聞こえる。君の家の方へと走り去っていった。